2012年4月15日日曜日

台湾STS学会 in 雲林

台湾STS学会の年次大会に参加するため,日帰りで雲林科技大学まで行ってきた。STSとは,Science, Technology amd Societyの略で,日本では「科学技術社会論」とも訳される新しい領域だ。最近,日本でも台湾でも,親しい研究者たちの口から「STS」という言葉を耳にすることが増えてきた。特に台湾では社会科学系のSTS研究が盛んだというので,さっそく年次大会に行ってきた。

雲林科技大学のある斗六へは,新幹線(高鐵)と在来線(台鐵)を乗り継いで約2時間半。

2007年に開通した台湾新幹線(台灣高速鐵路)。

うわさには聞いていたが,台中での新幹線と在来線の乗り換えは実に不便!新幹線の台中駅は,在来線の「新烏日」という新駅に接続しているのだが,ここにとまる在来線の本数は少なく,結局今回は,タクシーで20分近くかけて二つの台中駅のあいだを移動した。うーん,これなら,時間はかかっても在来線の特急でコトコト行って行くほうが楽だったのかも(*_*)。

台灣鉄路・台中駅。

さて,STS学会は実におもしろく,刺激的だった。
http://www.tw-sts.org/

「科学技術と社会」のこの「と」とはなんぞや?というのが,前々からSTSという学問領域についての私の疑問だったのだが,今日の学会のようすを見る限り,この「と」という助詞はたいへんあいまいであり,そのあいまいさ自体がミソのようである。科学技術という知識生産システムと,社会・政治・経済システムとの相互作用に焦点をあてる,というのがSTSの共通の出発点のようで,その共通認識さえ踏まえていればSTS研究に含まれる,という緩やかな仕切りのよう。

学会参加を誘ってくれた鄭陸霖さんの報告,盛り上がりました!Lulin,写真掲載の快諾ありがとう。


この2日間の報告ラインナップを見ると,テーマとしては,技術と人のインターフェースにかかわる問題群としての設計・工業デザイン,医療・安全規制,公害紛争をめぐる政治過程などが多い。台湾らしく,先住民や障害者などの社会的マイノリティ・弱者をめぐる空間構造に焦点をあてた発表も散見される。そしてこれも台湾らしいと思うのだが,科学技術システムへの市民参加という問題意識も強い。社会学,公共政策研究がさかんで,科学技術や企業組織をめぐる実証研究の伝統も厚い台湾らしいSTS研究のありようだとおもう。

とくに,「石油化学産業の健康リスク紛争:台プラ王国を検証する」というセッションでは,3.11のあとの日本社会を生きる私たちがつきつけられることとなった「科学の言葉」をめぐるポリティクスや,権力と「専門家」の関係といった論点が台湾プラスチックグループの事例にそって提起され,非常に刺激的だった。STSの視点は,科学技術システムと社会とが深く分断された今の日本にこそ必要なものなのではないか。

STS研究の内容は国ごとにカラーがずいぶん違うのだろうけれど,台湾のSTS研究は,総じて実証的,実践的,批判的な性格が強いようだ。2日目には,台湾の油症事件についてのラウンドテーブル討論も予定されているという。赴任前にテレビでカネミ油症事件の特集をみて心をうたれ,また台湾でも同様の悲惨な事件があったことを知ってぜひ詳しく知りたいと思っていたので,このセッションもぜひ傍聴したかったのだが,今回は日帰りで台北に引き上げてきた。

ちなみに,台湾の学会は,休憩時間のおかしが充実していて楽しいのだが,今回は,雲林の名産のおかしがふんだんに用意されていた。
左はさくさくのピーナッツのおかし,右はねっとりとしたういろうのような餅菓子。どちらもたいへん美味!


会場の雲林科技大学は緑の濃い広大なキャンパスだった。

参加者は学生が多く,会場の雰囲気は総じてリラックスした和気藹々としたかんじ(これは会場校の雰囲気も大きいのかも)。異なるディシプリンに軸足を置く研究者たちが,力をあわせてこの新しい領域を育てていこうとしている気概が感じられた。がんばれ,台湾STS学会!

研究をなりわいとするものが自分の生きる社会に対してどのように批判的かつ建設的に関わっていくことができるのか,考えさせられる一日だった。

4 件のコメント:

  1. Dear Momoko, I visited Tokyo for attending STS conference 9 years ago. This is the blog I wrote afterward. After 9 years, obviously STS of Taiwan has changed a lot since then. I wonder if I have a chance to revisit STS conference in "Tokyo, 9 years after," what differences would I be able to see? Just for your reference. http://jerry_cheng.blogs.com/view_points/2004/01/science_technol.html

    返信削除
    返信
    1. Thanks, Lulin! Your post is a good record of the situation of STS studies 10 years ago, and it also gives us an excellent introduction to the history of STS research in the social context of East Asian countries. Yes, you (and I) should keep on watching the development in the field, and writing "STS studies, x years after."

      削除
  2. 台中での高鐵から在来線の乗り継ぎ、私もかつていろいろ調べて不便そうで断念したことがありますが、実際やってみられてもそんなに不便なのですね。なぜそんな設計にしたのでしょうね?新幹線駅と在来線主要駅が離れてるのは大阪も同じですが、両駅は約5分刻みの在来線でつながれてるのでさほど不便は感じないんですけど、タクシーで行かねばならないようなら大変ですね。
    STS、なるほど、「と」がミソ、とのこと、よく理解できました。台湾では、新古典派でない経済学は社会学の範疇といいますが、そういう台湾だからこそ発展する学問なのかもしれませんね。

    返信削除
    返信
    1. 台鐵の台中駅は小ぶりだし町の真ん中にあるので,あの近くに高鐵の駅のような大きなものをつくるのは難しいのかもしれませんが,それにしても,もう少し乗り換えが便利ならばいいのになぁと思いました。

      台湾のSTS研究の興隆の背景には,組織社会学,MOT等の分野での研究蓄積や,活発な社会運動の影響があるように思いました。自分の専門領域とすこし距離があるけれども重なっているところもあるという領域の研究報告を聞くのは楽しいし,刺激を受けるものですねー。

      削除