2013年3月12日火曜日

20万人の「素人」たち: 3.9台湾反原発大行進

いったいどこからこんなに多くの人が集まってきたのだろう? 夕方の中山南路を埋め尽くすデモ参加者の長い長い列に,衝撃を受けた。「我反核」の旗を掲げて行進する学生たち,手作りのプラカードを手に一人で歩く女性,「廃核」ステッカーを服に貼った子ども連れの家族。彼らと一緒に歩いていたら,涙があふれそうになって,慌ててほっぺたの内側を強く噛んだ。


「私は台北芸大生,原発反対!」というゼッケン。

若者比率が高かった
3月8(金)~9(土)は台湾にとって慌ただしい週末となった。8日の夜は,WBCの日本vs台湾戦。延長10回,4対3で日本に逆転勝ちを許す結果となったが,日台双方が激戦を繰り広げた両チームをたたえる一夜となった。

明けて9日。この日は,福島の原発事故から2年となる週末にあわせて,大規模な反原発デモが予定されていた。朝から強い日射しが照りつけ,午後2時に集合場所の総統府前広場に着いた時には,初夏を思わせる暑さだった。

会場周辺にはすでにぎっしりと人が集まっている。若い人が多く,家族連れ・友人どうしといった小さなグループの姿が目につく。デモ隊の出発は14:30の予定だったが,予想を上回る人数が集まったため,時間を繰り上げて出発することになった。翌日の聯合報によれば,最初のグループが出発してから1時間以上が経っても,後方のグループは出発できなかったという。


とにかく暑かった。ひ弱な私は出発時と夕方の限定参加・・・
台湾は,福島の原発事故の衝撃を最も深刻に受け止めた社会の一つだ。その理由の一つは,台北の北東・約40Kmで建設中の第4原子力発電所(「核四」)の存在にある。この原発は計画から30年,着工からもすでに10年が経っているが,紆余曲折があっていまだに完成していない。最近も,建設途中での事故が相次いでおり,専門家や工事関係者から,技術的・構造的な問題の根深さを指摘する声が上がっている。すぐ側を活断層が走っているという調査結果もあるし,度重なる建設中止によって工事の質に大きな影響が出ているという指摘もある。

台湾も日本と同様,地震の多い土地だ。しかも,人口が密集する台北圏の近隣地域ですでに2つの原発が稼働している。それに加えて,技術的な問題の大きい第4原発を無理に稼働するようなことだけは,なんとしても避けなければならない--。福島の原発事故以降,台湾ではそんな声が急速に強まっている。

このような情勢のなかで,先月就任した江宜樺・行政院長が,「第4原発の建設中止の可否」を問う公民投票を実施する旨を表明した。島内4箇所で同時に行われる「3.9反原発大行進」の成否は,今後の反原発運動の行方を占う重要なイベントとして,注目されるものとなった。


cafe philo関係者たちの列。
りんご日報ウェブ版(3/9)より拝借(撮影:田裕華)


私が見る限り,このデモは大成功だったと思う。参加者数は,デモ開始後に,全島で10万人(:主催者発表。警察発表では6.6万人)と発表されたが,その後,22万人へと大きく上方修正された。実際の参加者はその何割引きだろうが(*とはいえ,この手の出入りの自由な長丁場のイベントでは,そもそも人数の数えようがない),主催者の予想を大きく上回る人数がマーチに参加したことは間違いない。デモから2日後に民進党の人たちと話をする機会があったのだが,若者を中心に予想を数倍上回る参加者が自発的に集まったことに,たいへん驚いたと語っていた。

私はこの10年ほど,台湾の政治集会を見学しておらず,最近では,去年5月の第2期・馬政権発足時に野党が組織した大規模デモに足を運んだだけだ。そのためこのデモの熱気や規模を過去の同種のデモと比較して測ることはできない。それでも,このデモには,参加者の数という「量的規模」では測れない「質的」な新しさがあると感じた。

特に印象に残ったのが,若者やカップル・家族連れの多さに象徴される自発性だ。ベビーカーを押している人もいれば,中学・高校生の子どもと親という組み合わせも多数参加している。信義エリアで見かけるようなおしゃれな若い恋人たちや女性もたくさん来ている。動員されてやってきたとは思えない面々だ。また,政党が組織する集会では,鉢巻や旗といったグッズが配られるのだが,この日は自作のものを持ってきた人も多かった。反原発のシンボルの旗を身体に巻き付けている人も多かったが,この旗は人気が高く,品薄状態らしい。

台湾の政治集会の特徴ともいうべき祝祭性にも,政党主導のデモとは違う色合いが感じられた。1995-97年の台北赴任時に見学した選挙集会や,去年の反馬政権デモが,一段高くしつらえた固定舞台での出し物を中心とする企画型・動員型だとすれば,この日のデモは分散型のストリートパフォーマンス系だ。

何より,3.9デモの最大の成功は,台湾の政治を特徴付けてきた激しい政治陣営間対立とは一線を画したかたちで,これだけの規模の街頭行動を実現できた点にあると思う。翌日の新聞のなかではデモの扱いがもっとも小さかった保守系の新聞「聯合報」でも,「素人(一般の人々)の街頭行動に新しいページが刻まれた」という標題のもと,この日のデモでは,これまでの反原発運動とは違って,政治家が表に登場せず,NGO,アート界(映画監督や芸能人たち)と一般大衆がマーチを主導したこと,これによって反原発運動が「青陣営(国民党系)vs緑陣営(民進党系)」の図式を越え,新たな市民運動へと発展したことの意義が強調されていた。私もその通りだと思う。

翌日の各紙は「20万人の参加」を大きく伝えた(facebook中央社サイトより。)

デモにはペット連れでやってくる人も多い。
この日の夜,WBCの対キューバ戦で,中華台北(台湾)チームは,0-14のコールド負けというなんともトホホな結果に終わった。でも,もし「市民社会のパワー・国別対抗戦」とか「デモを盛り上げる創意工夫・世界コンテスト」などが開かれたら,台湾チームは多分ぶっちぎりで優勝するだろう。


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