2013年10月18日金曜日

バークレー到着:"visiting sholarになる"

強烈な日射しのもと,柔らかな緑の芝生に寝転ぶ学生たちをよけながら,白亜の宮殿風のDoe Libraryの建物に向かって坂を降りていくと,サンフランシスコ湾が目の前に迫り出してくる。穏やかに光る海の上に,ゴールデンゲートブリッジが姿をみせている。

そのあまりに絵葉書的な美しさに,現実感を失って,しばし立ちつくしてしまう。私は本当にバークレーに来たのだろうか・・・・?

Doe LibraryとUCバークレーの象徴・Sather Tower

カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)での在外研究を始めて2週間がたった。連邦政府の閉鎖,サンフランシスコ地域の大動脈・BARTのスト予告と,周囲では様々なできごとが起きているが,多くの方からの力添えをいただいて,今のところ順調に生活を立ち上げつつある。特に住まいが早々と決まったこと,そのアパートが,代々UCバークレーに通う日本人VS(visiting scholar)が住んできた部屋で,いたって便利な快適な住まいであることが,不慣れなアメリカでの生活を順調に開始できた最大の鍵だったと思う。

半年間受け入れていただいた研究所も,アットホームな雰囲気だ。イタリア,ベルギー,ブラジル,トルコ,日本と世界各国から集まってきたオフィスメイトの存在も心強い。

半年間お世話になる研究所。木造で,大きな家のようなつくり。

けれども,ここバークレイでの「研究生活」が,まだ自分のなかでどうもうまく立ち上がってこない。憧れの大学に来られて張り切ってはいるのだけれど,いざVS生活を始めてみると,「台湾をフィールドとする私がアメリカで研究生活を送ることの意義」が,うまくつかめないのだ。

思えば,台湾での研究生活は,単純明快なものだった。予め決めたトピックについて調査を進めること,次の5年へとつながる新しいテーマを見つけること。達成できるかどうかは別として,そんな明確な目標があった。研究が思うように進まなくても,バスの車内風景を観察したり,友人とおしゃべりするなかで,私のなかの"台湾の皮膚感覚"が15年ぶりに更新されていくことが嬉しかった。

それに比べると,これからの半年は,時間が短く,選択肢が多い分,軸を決めるのが難しい。インプットを中心とするのか,アウトプットに時間を使うか。台湾についての研究を進めることと,成果にはつながらなくても視野を広げるために時間を使うことの,どちらを優先するべきなのか。半年という時間の短さを意識するほどに,何に手をつけてみても「今これをしていていいのだろうか」と気が散ってしまう・・・。

そんな日々が続いたあとで,VSの先達たちに体験談を聞いてみた。皆さん,自分の経験に基づいて的確な助言をくださったが,「あれこれ目標を立てて中途半端に終わるより,『これはやれた』と思えることを1つやれるように努力したほうがいい」という趣旨のアドバイスしてくれた方が複数いた。私の滞在を受け入れてくださったClair先生からは,「バークレーというこの場所でしかできないことを最優先しなさい」という助言をいただいた。

こういった言葉が心に響くのは,私のなかに強く反応するものがあるからだ。というわけで,これから半年間の私の目標は,「1つだけでいいから,バークレーでしかできないことをやり遂げること」に決定。やはり台湾で追いかけたテーマにつながるインタビューを1つでも多くできるよう,ここベイエリアでも頑張ってみよう。

とはいえ,「広く浅く」の魅力も捨てがたい。今週月曜日には,滞在先の研究所で社会経済学の大御所Neil Fligstein教授のランチセミナーがあった。美味しいブリートとサラダをほおばりながら,10数人という少人数の聞き手とともに,憧れの学者の研究報告を聞けるというこの贅沢!理論家でもあるフリグスタイン教授が,これだけ著名になっても,小さなセミナーで実証的な分析の報告をすること,参加者の質問やコメントの仕方がストレートで,対等な立場からの議論提起であることに,刺激を受けた。

うーん,自分のフィールドから離れて,広く浅く耳学問を重ねることだって,バークレーでしかできないことなのだ。「中途半端に終わる」ことに取り組めるのも,VSの特権ではないだろうか?こう考えると,自分が何を優先するべきなのか,さらにいっそう分からなくなってくる。

ここにやって来る人たちは,VSとしての目標をもった日々を重ねるなかで,訪問研究者としての自覚を得ていくのだろう。私のバークレー生活は,まずは「VSになる」べく,生活の指針を見定めることから始まるようだ。

キャンパス西門を入ると巨大なアメリカ杉の茂みがある

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