2013年1月21日月曜日

寒さに強い台湾人 vs 暑さに強い日本人


台北に遅い秋風が吹き始めた昨年11月ごろ,突如,街中に厚着女子の群れが現われた。昼間は20度台後半まで上がる日もあるのに,ダウンジャケットを着たり,ロングブーツを履いたりしているのだ。

台北在住の日本人女性と話すたびに,「こんなに暖かいのになぜマフラーを巻く?」「ロングブーツを履いて足が蒸れないか?」と疑問を語り合った。


室内でもニットの帽子やダウンコートを着たままの人が多い。

その後も,厚着女子の勢いはとまらない。

12月に入り,雨の降る日が増えて平均気温がじりじりと下がってくると,長いウールマフラーに顔を埋めたり,ニット帽をまぶかにかぶったりしている女性を見かけるようになった。寒い,といっても,最低気温は10度,日中は20度近くまであがる。あんな格好をしたら,芽が出てしまうのではないか,と心配になる。



冬には犬にも服を着せる人が増える。

というわけで,さすがに南国・台湾の人たちは寒がりだなぁ,と思っていたのだが,1月になってはたと,実は,台湾の人たちが寒さに大変強いことに気がついた。

1-2月の台北は,大陸から繰り返し近づいてくる寒冷前線に覆われ,周期的な寒さに見舞われる。しかも,寒波は雨とセットでやってくる。そして,台湾では基本的に室内には暖房がない(私のいる研究所には暖房があるのだが,10度未満にならないとONにならない)。寒波+雨+暖房なし,という3条件がそろうと,温度計は10度を越えていても,体感温度は相当下がるのだ。

特に,私の研究室のように北向きだったり,机と窓の距離が近かったりすると,足元から湿った冷気が上がってきて底冷えがする。日本なら確実に,総務課に文句が殺到する寒さだ。

しかし,不思議なことに,台湾の人たちはこの寒さに,少なくとも私よりよほど順応している。というか,さすがに寒いとは感じているようなのだが,コートやダウンベストを着こんで平然と仕事をしている。

だが,暖房の効いた日本の職場で冬を過ごしてきた私は,コートを着てパソコンを打つのがどうにも落ち着かない(実際問題として,肩が凝る)。仕方なく,ショールをはおり,膝かけをしながら仕事をしていたのだが,ついに風邪を引いてしまった・・・・。


小籠包で有名な「鼎泰豊」。行列客のための屋外ストーブがある。


寒波が去ればポカポカ。でも寒い時は寒い!


というわけで,この週末は,風邪でぼんやりした頭で「なぜ台湾の人たちは,外ではあんなに厚着をするのに,室内の寒さにああも強いのか?」と考えてみたのだが,すぐに有力な仮説が思い浮かんだ。

台湾人は,夏の強烈な冷房ざんまいのなかで,室内の寒さへの耐性を獲得しているに違いないのである!

台北で過ごした15年ぶりのこの夏,私は冷房にひどく苦しめられた。とにかく,オフィス,図書館,レストラン,映画館,どこに行っても冷蔵庫のようなキンキンの冷やしぶり。灼熱の太陽の下から室内に入ると一瞬心地よいが,ものの10分もしないうちに,体中に冷気がしみこんできて,骨まで冷えるような寒さに苦しめられる。

だが,台湾の人たちは,この強烈な冷房が一向に平気なのだ。私が「寒い」と言うと,多くの人が「確かにそうだ」と同意するし,冷房の下で上着を着ていたりする。しかし,冷房の温度を上げようというアクションにはつながらない。台湾でも反原発運動の機運が高まっている折り,少しは冷房温度を上げたほうがいいと思うのだが。

そもそも,冷房についての認識が日本とは違う。日本では夏になるたび,新聞やネットニュースで「冷房温度をめぐる職場内・家庭内での男女の攻防」や「冷房病に苦しむ女性たちの声」が取り上げられ,長時間の冷房が身体によくない,という認識が広く共有されていると思う。

しかし,台湾ではそもそも「冷房病」という概念がないもよう。何人かの友人にその話をしたら「初めて聞いたよ,何それ?」といぶかしがられる始末。

そして,「あなたは日本人,しかも東北出身なんだから,寒さには強いんじゃないの?」と不思議がられ,「日本人は暑さに強いねぇ」と誉められる始末。



雨,雨・・・(淡水中学校にて)


そういえば,東京から300キロ北にある私の実家でも,冬になると二重窓のサッシのなかで気前よく石油ストーブを焚き,東京の人々よりよほど暖かい暮らしを過ごしている。寒いところの人が寒さに強く,暑いところの人が暑さに強い,などというのは,グローバル資本主義が到来する前のはるか昔のはなし。今や,暑いところの人は寒さを,寒いところの人は暖かさを求めて,日々,石油を盛大に燃やし続けているのである・・・。

さて,冒頭で触れた台北の厚着女子たちの謎。

予想されたことではあるが,彼女たちの厚着は,「冬の装いへの憧れ」の表れのようだ。沖縄出身の友人が,「手袋をはめたりストールを巻いたりするのに憧れた」と語っていたことも思い出した。人はなぜか,経験したことのない暑さや寒さに憧れるもののようだ。

いや,しかし,台北女性の厚着は,「伊達の厚着」ではないのだった。冬の台北では,室内でこそ,しっかり着こまなければならないのである! と,風邪薬を飲み干しながら,自分に言い聞かせた。




2013年1月13日日曜日

香港ぶらり一人旅: コスモポリスの動的平衡


2013年最初の月も,あっという間に半分が過ぎてしまった。

年を重ねるとともに「去年今年貫く棒の如きもの」(虚子)という思いが強くなるうえ,旧正月を盛大に祝う台湾では,西暦の新年を迎えても特に改まったあいさつを交わすわけでもなく,正月気分が盛り上がらない。それでも,新しい年の始まりには,自然と気持ちが引き締まる。

私の台湾生活も,折り返し点を迎えた。残りの9ヶ月の台北生活を実り多いものとするよう,一日一日を大切に過ごしていきたい。このブログも,一月二回の更新をめやすに,細々とながらも続けていきたいと思う。

おおみそかは,友人に誘われて自由広場の反・メディア独占運動のカウントダウン集会に参加した。


さて,年末,思い立って香港に2泊3日の旅行に行ってきた。目的はただひとつ。大好きな香港の空気をたっぷりと吸って,プチ充電をすること。

出張も含めれば,香港に行った回数は20回を下回らないと思うが,私の香港旅行は,毎度同じコースを同じように歩き回る究極のワンパターンである。

スタートはチムサッチョイのチュンキンマンション。ウォンカーウァイの「恋する惑星」で有名になった,安宿の集まる雑居ビルだ。

チュンキンマンション。随分きれいな外観になった。

1-2Fにはインド系,中東系の店が集まる。
続いて,カオルーン側からスターフェリーに乗って,香港島の景色をぼんやりと眺める。

昼の部。

夜の部。

私はスターフェリーから眺めるこの風景が大・大好きだ。こんなに魅力的で決定的な顔を持った都市は世界に二つとないと思う。

夜景も美しいが,ビル一つ一つの表情がよく見える昼間の風景もすばらしい。ビクトリア湾と切り立った花崗岩の岡に挟まれ,水際ぎりぎりまで迫り出した高層ビル街のスカイラインをみるたび,「都市」という人工物のもつ凄みとはかなさに,胸がしめつけられる。晴れた日はもちろん,霧のなかでぼうっと霞んだ香港サイドの風景もなまめかしい。

香港島に着いたら,ミッドレベル・エスカレーターに乗っていちばん上のロビンソン・ロードあたりまで上がり,帰りは,上環(ションワン)に向かってぶらぶらと下りていく。

長い長~いミッドレベルエスカレータ-。何度のっても楽しい!
この一帯は,金融街で働くぱりっとした服装の香港人や欧米人,世界中から集まってくる観光客,路地裏で暮らす人々が行き交う,国際色豊かな香港らしいエリアだ。

島側は坂だらけ。

上環まで下りたら,トラムに乗って,終点のノースポイントまで向かう。トラムでは二階,できれば最前席に座りたい。途中下車して,ビクトリア・ピークに登るというのも私のお上りさん旅行には欠かせないポイントなのだが,今回は曇天が続いたのでパス。

華やかな車体広告が楽しいトラム。

東へ向かうほどに庶民の街となり,さいごは市場のなかに突入するトラム。

福建人が多いというノースポイントの街。中央がトラムの線路。

夜は,ジョーダンから,ヨウマティ,モンコック一帯を散歩。世界中から集まってきた観光客と香港の人々とがおしあいへしあいする夜の街は,「るつぼ」としての香港を実感する空間だ。

「インファナル・アフェア」ファンならピンとくる!?この風景@上海街。


ネーザン・ロードは宝飾店だらけ。周生生と周大福の二大チェーンが勢力争い中?!

ザ・金の首飾り。
こうして歩き回ってみると,香港と台北は実に対照的な都市だと改めて思う。なのに不思議なことに台湾の人たちは,口を揃えて「香港は台北と似ているから観光に行ってもつまらない」と言う・・・大声で叫ばせていただきますが,香港と台北はまるで違いますっ!!

香港が,地形・建物のつくりという点で,世界でもまれなほどの垂直的な空間構造をもつ都市であるのに対して,台北は横長で水平的なつくりを持つ町だ。

香港が,世界中から集まってくる観光客やビジネスマンがせわしなく行き交うコスモポリスであるのに対して,台北は(そして香港に比べれば東京も)いたってローカルな性格の強い生活都市だ。

人々の歩く速度も,レストランやお店の従業員の態度も,ビジネスマンの服装も,香港と台北とはまるで違う。

暮らすなら,きっと台北のほうがずっと住みやすいだろう。相互扶助の精神,包摂的な社会への意志,経済格差の相対的な小ささなど,香港に比べると,台湾は格段に強い凝集力を持つ社会であるように思う。

けれども,香港というメトロポリスが放つ輝きもまた強烈だ。近未来的なのに世紀末的。常に変わり続けているのに,少しも色あせることのない華やかさを保ち続けている街だと思う。


開発が進むウェスト・カウルーン。

この20年の間に,カイタック空港が消え,九龍城が消え,セントラルのスターフェリー乗り場も一変した。ホテルやレストランでは英語に変わって北京語が通じるようになった。アジア人観光客の主力も,日本人から中国人へと移り変わった。ICCができて,かつては香港サイドの顔だったHSBCやシティグループの美しいビルが埋もれてしまい,香港島の美しいスカイラインのバランスも変わってしまった。

何より香港の社会が,中国からの人の大量流入によって強い負荷を強いられ,政治システムや教育を通じて内側から中国への同化を迫られている。

けれども,一観光客の目に映る,冷たく光り輝く宝石のような香港の魅力は決して色あせてはいない。

何年か前に,福岡伸一の『生物と無生物のあいだ』を読んで,人間の生命は,分子レベルでは絶え間なく入れ替わっているのに,その流れは全体としてひとつの統一的な秩序のもとにある,という「動的平衡」の生命観にであったときには新鮮な驚きをおぼえた。

都市もまた,「動的平衡」の最たるものであるとも思う。日々,こんなに大きく変わりながらも,世界屈指のコスモポリタンとしての香港の魅力は健在である。都市という生き物のもつ不思議なintegrityに驚かされる。

ちなみに,香港の魅力は,B級グルメの楽しみにもある。女性の一人旅でもごはんに大して困らないのが,香港や台湾のすばらしいところ。というわけで,気分転換にぶらり旅に出たい方には,香港を強力推薦いたします!



和味生滾粥@呉松街75號の焼き魚入りお粥。美味!!

麥("不"の下に"大")雲呑麺世家@ウェリントン街77號。えび雲呑が麺の下に隠れているところが奥ゆかしい。池記の雲呑麺も美味だった。

太興焼味餐廳@科学館道。肉食系中年女子の大好物。